ヘルメット義務化は違憲か

 

設問

「自転車の運転においては、ヘルメットを装着しなければならない。これに違反した場合、3万円以下の罰金に処する。」との法律が制定されたとする。この法律の憲法適合性について論ぜよ。

 

1 本法律は、自転車の運転に際しヘルメットを装着しない自由を侵害するものとして違憲とならないか。

2 まず、ヘルメットを装着せずに自転車を運転するという行為が人格的生存に不可欠とはいい難いから、上記自由は13条後段により保障されない。

3 もっとも、本法律は、罰金刑を科す点で強力な制約を課すものである。そこで、かかる行為に対する憲法上の保護が与えられないか。憲法上保障されない権利についての制約の限界が問題となる。

(1)そもそも、憲法上の権利として保障されない場合であっても、法の支配の下、国民の私生活上の自由を制限するには合理的理由がなければならない。

 そうだとすれば、13条後段は、人格的生存に不可欠な権利を憲法上の権利として保障するのみならず、およそ国民の自由の制限が法治国家原理に服すべきことを定めた客観法でもあると解する。

 そこで、規制の当否は比例原則により判断されるべきであり、具体的には規制の必要性及び相当性により判断されるべきと解する。

(2)これを本件についてみると、ヘルメットは自転車運転者の頭部という人体の枢要部を保護するものであり、安全性の向上という効果をもたらす。実際、事故に遭ったときに、ヘルメットを装着している場合はそうでない場合に比べ死亡率が約半分に減少するという調査結果も存在する。そうだとすれば、自転車運転者の生命保護のためヘルメットの装着を義務化する必要性がある。

 一方、3万円以下の罰金というのは多額であり、相当数の国民にとり自転車が日常生活において欠かせないことからすれば、その不利益は大きいものといえる。また、罰則付きの規制にせずとも、努力義務化や行政による広報、自転車販売店での声かけ等によっても、ヘルメットの装着率を向上させることは十分可能である。そうだとすれば、このような規制は相当性を欠くといえる。

(3)したがって、自転車利用者のヘルメットの装着を罰則をもって義務付けることは過剰な規制といえ、比例原則に反する。

4 よって、本法律は13条後段に反し違憲である。

                以上